おはようからおやすみまで蕩けさせて
「馬鹿なこと言うなよ!お前みたいに何でもこなせる奴がヒラになってどうするんだ!」


焦って喋った所為か、ゲホン、ゴホン!と咳き込む。


「…馬鹿も休み休みにしとけっ!」


苦しそうな声で言い放ち、喉の奥を鳴らす。


「馬鹿なんて言ってないよ。本気だ」


山本の指先に摘ままれたタバコの灰がポロン…と落っこちた。
唖然としたまま目も口も丸く開けた奴に笑いかけ、「それが結実の願いなんだ」と説明した。


「お前がヒラになることが願いなのか?」


「いや、家で家族に迎えられるのが夢だったらしい」


飲みながら泣き出した結実は、まるで小さな子供みたいだった。
後から話を聞くと鍵っ子だったらしく、誰もいない家に帰るのが常だったそうだ。


「どういう意味だよ、それ」


「そういう意味合いだよ」



全然わかんねーよと呆れる山本に、分からなくてもいいと零し喫煙コーナーを後にする。

人事に寄って異動の件を頼んでおくかと向きを変えれば、掲示板の前にはまだ女子達の群れが見える。


あの場へ行けば面倒くさいことに巻き込まれそうな気配を感じる。
今日の所は止めておいて、また次の機会にでも出直すか。


背中を向けて逃げだそうとしたが運悪く見つかってしまい、「どういうことなんですか!?」と取り囲まれてしまった。
怒ったような表情で見つめる女子達の中には、以前一緒に飲んだこともある女もいる。


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