おはようからおやすみまで蕩けさせて
呆然としたまま立ち尽くしていると、後から来た人達が社内報を見て騒つく。



「うそぉ」

「天宮さんが異動!?」


どうして…と話しだす人達が私に気付いて口籠る。
これを願ったのはこの人?みたいな視線を注がれ、居た堪れなくなって逃げだした。


こんなフザけた異動を黙って放っておいてもいいもの?
私よりも仕事のデキる彼が役職を下りるなんてアリ?



(そんなのナシに決まってるじゃない!天宮さんがリーダーをしなくて誰がするの!)



猛然と向きを変えて歩いた。
営業のブースへ向かう前に人事部長さんに会っておかなくてはいけない。


人事部へ向かっている途中では、掲示板を見たと思われる人達の囁き合う声が聞かれる。

これまでは「あの人が天宮さんの奥さんなの?」という声が主流だったのに、今朝は「自分で異動を拒んだの?」に変わってる。


そんな筈ないじゃない。
私はいずれ専業主婦になるつもりでいたのに。



人事部のプレートを見つけて飛び込んだ。
職員室のようなデスクが並ぶ室内では、私を見つけた社員が驚いた様な顔をしている。

その上座に目を向けてみると、今朝一緒に出勤してきた人が立っていた。


淡いグレーのスーツを着た彼は、向かい合わせに座る男性と話し込んでる。

相手は婚姻の報告をした際に「お幸せに」と言ってくれた人事部長さんで、二人の顔つきは何処か楽しそうだ。


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