おはようからおやすみまで蕩けさせて
言葉を遮るように名前を呼ばれ、あっという間に肩を抱きすくめられる。


「すみません、部長。お話はまた後ほど」


断りを言って歩き出す。
私は彼の顔を振り返り、まだ言い足りてないのに…と睨んだ。


人事部の外へ出ると、掲示板を見たと思われる女子達の視線が突き刺さる。
それに困ったような笑みを浮かべた彼が「外へ行こう」と歩き出した。

その歩調に戸惑うように合わせる。
肩を抱かれたままだと歩きにくいと訴え、途中から解放してくれるように頼んだ。



「残念。見せつけるチャンスだったのに」


冗談めいて笑う。
私はその彼に対して、怒りに近い感情を持ちそうだった。



(天宮さんはきっと内示を聞いてた筈だ。自分が人事へ異動することも、私がリーダーを引き継ぐことも聞いてた筈…)


なのに、どうして黙っておいたのかが分からない。
自分が役職を降ろされることを納得出来るような人には思えないのに。




「どうしてあんな人事に賛成するの!?」


オフィスの外へ出ると声を張り上げた。
バイヤーチームに残りたかった訳じゃないのに、どうして私が残るの。

自分はもう三十四だし、いずれは子供も産みたい。
年齢的なことを考えてもそんな先でもない筈だから、別の部署に移されてもいいと思っていたし願っていた……。



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