おはようからおやすみまで蕩けさせて
「私の職能が上がって、貴方が降りるなんてヘンよ!もう一度人事部長に掛け合って、逆にして下さいって頼んでくる!」


こんなの間違ってる。
私よりも仕事のデキる彼が役職を降ろされるなんて。



「…待った!」


踵を返そうとするのを止められた。
鋭い眼差しを向けると、少しだけ彼の顔が固まる。



「あの人事は俺が希望したんだ」


真面目ぶる顔で言われても、「はっ?」としか言葉が返せない。


「なんで!」


怒りも覚えるけどその前に疑問が溢れだす。

どうしてそんなことを望む必要があったの?
この人はバイヤーという仕事が嫌いだった?
本当はもっと早くに異動したくて、結婚したことがいい機会になるとでも思われた?


突然過ぎて頭の中が混乱する。
聞きたいことが言葉にならず、頭の中でグルグルと回転している。


「結実…」


名前を呼んだ彼が近付く。
そのイケメン面を見つめ、「どうして?」と問い直した。


「俺が結実の願いを叶えたかったから」


薄っすらと微笑まれ、私は益々混乱を襲われる。


「私の願いって何?」


確かに酔った勢いで結婚したいとは言った。

それを信じて貰えなくてもいいと思ったけど、天宮さんはちゃんと想いを受け止めてくれた。


ずっと憧れ続けてきた彼と結婚し、毎晩のように愛されて幸せだと思うし、その幸せが長く続けばいいと願ってる。


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