おはようからおやすみまで蕩けさせて
「このグラスは口当たりが悪いですよ。ザラザラしてるし、カラーも涼し気じゃない。こんなのうちのお店に陳列しても売れません!」


メーカーの持ってきた商品を片手にばっさりと切り落とす。
我ながらよくやると思いつつ、それでも妥協は許さない。


「形は小振りで可愛いからこのザラつき感を無くして、ストローでじゃなくてクリアカラーにしてみて下さい」


切り落とした後でこちらの要望を伝える。
メーカーの開発担当者がそれをメモり、次回また伺います…と言って帰って行く。



「先輩って、いつか呪われそうですね」


側で見ていた後輩バイヤーの津田ちゃんが呟く。
さっきのメーカーの担当者が、私のことを怖い顔で睨んでいたそうだ。


「呪われても店に出せない商品は仕入れられないもの」


幾つも在る小売販売の業態。
商品価値を見極めて、低価格だけど高品質のものを売らないと直ぐに潰れてしまう。


「それだから仕事人だと言われるんですよ」


昔流行ったテレビドラマのように、バッサバッサとメーカーの商品を切り捨てる私。
結局はそれが世の中の為になるから、オフィスでは『仕事人』と呼ばれている。


「私もあと何年か経てば、田端先輩みたいになるのかなぁ」


想像もつかないと話す津田ちゃんを見て、私も同じことを思ったもんだ…と懐かしくなる。


< 4 / 164 >

この作品をシェア

pagetop