おはようからおやすみまで蕩けさせて
「津田ちゃんはその前に会社が何を求めているかを見極めないとね」


オフィスのコンセプトを理解していないと、どんな商品を仕入れても客受けがしない。
幾つも在る業態だからこそ、うちだけの物を作り出さないと意味がない。


「私はその前に結婚したい気分ですよ」


キャリア志向じゃない彼女はそう言いながら笑う。

自慢じゃないけど、それは自分だって同じ。
津田ちゃんと同じように、本当は結婚願望だって持っている。
二十代の後半までは彼氏だっていたし、その人が「結婚しよう」と言ってくれたらするつもりでいたんだ。


だけど、バイヤーを始めた七年前から急に仕事が面白くなった。
少々不純ではあったけど、天宮さんの側に居れるのが嬉しかった。


彼の側で仕事にのめり込んでいく私に呆れ、彼氏がどんどん遠去かっていった。
寂しくもあったけど、その分大きな仕事を任される喜びも掴んだ。




「どうだ?」


今や確認しかしてこない存在になっても天宮さんは私の憧れ。
彼のようなバイヤーにもなりたいと思うけど、別に夢もちゃんとあって……。



「ダメです。先輩がメッタ切りしてます」


「だって妥協はしたくないから」


津田ちゃんの言葉に言い訳しようとすると笑われた。
天宮さんは可笑しそうに口元に手をやり、「相変わらずだな」と呟く。


「程々にしとけよ」


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