おはようからおやすみまで蕩けさせて
その夜、オフィスの部署を一番最後に出てマンションへ戻った。
黒いドアの前で暫く立ち尽くし、他に行く当てもないからインターホンを押した。



「おかえり!」


満面の笑みで迎えてくれたのは、既に部屋着に着替えた天宮さん。



「ただいま…」


新体制がスタートして以来、毎日こうして私を出迎えてくれる。
玄関の中からドアを押し開けた状態で待たれ、隙間を抜けて入ればハグされてーー。


「ん…」


甘い蕩けるようなキスが始まり、いつもならそれを受けてトロントロンになってしまうところだけど。


「…も…いいから……」


今夜は何だかキスにも酔えない。
あの騒ぎの後の空気の悪さが、ずっと胸に残ってる。


「何だ。つまらないな」


身体を直ぐには離さず、名残惜しそうに額にキスを落とされる。


「お願い……疲れてるの……」


天宮さんの所為じゃないけど、所為かもしれない。
私にはリーダー職なんて向かないのに押し付けて、自分は気軽に人事部で働いて。


「ごめん。わかった…」


ションボリと肩を落とす彼に胸の奥がチクッと痛む。


「先にお風呂に入るか?それとも夕食にする?」


その質問は私が貴方にしてあげたかったことなのにーー。


「お風呂…浸かりたい…」


上がったらソッコーで眠りたい。
夕食なんて喉も通らないほど草臥れてる。


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