おはようからおやすみまで蕩けさせて
「ごめんなさい。何だか気分が優れないので席を外させて頂きます」


逃げだすなんてサイテーだ。
津田ちゃんに「ごめんね」と謝り、後のことを頼んで立った。



「天宮リーダー!」


呼び止める声を背中で聞いて、振り向くこともせずに早足で逃げた。

商談ブースを飛び出し、気持ちを落ち着けようとトイレに向かっていた時……



(えっ…)


廊下の端っこにいる二人の姿に目を疑う。

私のことを嫌ってるチームメンバーの女子が天宮さんと話してる。


(どうして…)


私とは一切喋ろうとしないのに、彼とは部署が別れても話せるの?

何を話してるの?
私のこと?


彼の目線は彼女の顔を真剣に見てる。
彼女の方も満更でもない雰囲気に見える。

フッ…と笑った彼が彼女の肩を叩いた。
優しく笑いかけ、それを見た彼女がポッと頬を染める。


ズキン…と大きな胸の痛みを感じて背中を向けた。
商談ブースからも二人からも逃げ出して、行く当てもないからビルの屋上へと向かった。


屋上のドアを開ければどんよりとした雲が空に広がり、午後からは雨が降ると言ってたんだと思い出した。


ペタン…と置かれてあったベンチに腰掛け、何をやってるんだろうと自分に問いかける。

あれほど自信を持って商品を斬り捌いていた私だったのに、今日は自分の言葉すらも出てこなかった。


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