おはようからおやすみまで蕩けさせて
さっきのシーンが思い浮かんだ。
あれはそういう場面だったのか。


「癪に触るけど、彼の顔を立てた方がいいと思うから聞きに来ました。いいアドバイスがあれば教えて下さい」


提示された資料を見て、その場は何とか答えを言った。

だけど胸の中では納得のいかない怒りの様な感情が渦巻いていて、天宮さんに感謝しなければいけないのに、どうして…という疑問が湧きだしてくる。



貴方はこのチームを去ったのに、どうしてチームワークにまで口を挟んでくるの。

人事部の教育担当に自ら望んでなったんだから、それに徹すればいいじゃない。

このチームを纏めていくのは私の仕事で、本来なら彼女は、私の言葉で態度を変えていくのが筋なのに。


どうしてその仕事を奪うの?

溺愛するのは家庭だけで十分過ぎるくらいなのに、仕事でも助けて欲しいなんて、一言も言ってないのにーーー。




「負担」って言葉が思い浮かんだ。

オフィスでの地位も、彼の妻としての地位も負担だと感じだした。



(ダメよ。そんなこと言える訳ない……)


石を投じたのは私なんだ。
彼の心に石を投げ、波紋を広げたのは自分。

それなのに、今更それが負担だなんて言える?
重いんです…とか、口が裂けても言えやしない。


だけど、その後もどんどんその気持ちは大きくなって、オフィスを出てマンションへ向かい出す頃には抑えきれなくなっていた。


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