おはようからおやすみまで蕩けさせて
ピンポーン…と室内に響くインターホンを耳にしながら、堪えろ、堪えろ…と念じておく。


カチャ…と鍵のロックが外され、中から髪のセットが崩れた彼が出てきた。


「お帰り、結実」


……そう、確かにこうして迎えられたかった。
幼い頃からの夢が、今叶えられてるけど。



「ただいま…」


張りきって元気よく挨拶ができない。
だって、心が重過ぎて浮上していかなくて。


ドアの隙間をすり抜けて入れば、やっぱりいつもの様にハグされたーーー




「天宮さん…」


どうしていつまでも苗字で呼んでしまうのか、自分でもずっと疑問だったんだけど。



「ん?」


イケメンで優しい彼が微笑んでる。
その顔を見て胸がときめかない訳じゃない。だけど……



「お願い。一人にさせて」


もう一度、自分の気持ちを見つめ直したい。
本当にこの人のことが大好きなのかも含めて、一から結婚について考え直してみたい。


「え…」


驚くのもムリない。
だけど、このままだと私は、きっともっと貴方を拒否しだす。



「お願い。私を一人にさせて欲しいの」


心が置いてかれてるみたいなの。
あの夜からずっと、何処かに心を置き忘れてる様な気がしてならない。



「結実…」


二人だけの時にしか呼ばれなかった名前。
それをオフィスの人前でも呼んでもらえる立場になったというのに。


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