おはようからおやすみまで蕩けさせて
「カンパーイ!」


カチンとグラスの縁をぶつけて鳴らす。
仕事の終わった午後七時、約束通り天宮さんと駅近の店に飲みに来ていた。


ゴクゴクと食前酒のグラスの中身を一気飲みしてプハッと息を吐く私。
それを向かい側で見ていた彼が、不思議そうに首を傾げた。


「なんでシャンパンなんだ?」


天宮さんは生ビールの中ジョッキ、私はグラス入りのシャンパンを注文した。


「へへへ。実は今日、誕生日なんです。めでたく大厄も明けたから嬉しくって」


加えて言うなら大口の商談が一つ決まった後だった。
それもあって、少し気持ちが緩んでいた。


「誕生日?大厄?」


「女の厄年知らないんですか?三十一歳からの三年間の大厄がめでたく終わったんです」


私の話を聞いて頭の中で計算をしたんだろう。
少し上目遣いをしていた眼差しが、こっちの方に下げられた。


「…と言うことは、三十四歳になったって意味か?」


「歳までハッキリ言うなんて失礼ですよ」


まぁそうですけどね…と呟き、側を通りかかった店員を呼び止める。


「グラスシャンパンをもう一杯お願いします」


注文の紙にサラサラと書き加え、畏まりましたと逃げて行く店員。


「そんなに飲んで平気か?」


「大丈夫です!シャンパンの一杯や二杯飲んだくらいじゃどうもないですよー」


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