これを運命と呼ぶなら聞こえはいいけれど
 


傍らに置いていたスマホに手を伸ばし、そろりと指を滑らせてみる。
昨日会ったばかりの、なんなら今日の朝まで一緒にいた恋人の名前を押すと、メッセージ入力欄が口を開けた。


――このあとまた家行っていい?


そんなわがままを飲み込ませ画面を見つめていると、1分と経たないうちに新しいふきだしが現れる。


――いいよ。



この人が、どうしてわたしを好きなのか。
今でもいちばん近くにいてくれるのか。
わからない。わたしたちの間にはよくわからないことが多い。

それでも。この「いいよ」の一言だけで、ああまだ大丈夫なのだと、ひどく安心してしまうのだ。







しばらく飲んで喋って解散した後、そのまま彼の住むアパートへと向かった。
合鍵を使って部屋の中へ入ると、電気とテレビはつけたまま、ソファの上で寝こけている男が約いっぴき。

まあ、なんて気持ち良さそうな。ついさっきまで散々話のネタにされていたなんて夢にも思っていないんだろうな。


「……眼鏡つけたままだし」


ふ、と思わず笑いながら。
わたしは忍び足でソファに近寄り、大地の耳にかかったメタルフレームをそっと外してあげた。

そしてその場に座り、静かに寝息を立てている彼の顔をぼんやり眺める。



大学卒業後、わたしは地元で就職して、彼は大学院へと進学した。
最近は研究と報告会の繰り返しでなかなか忙しいらしい。テーブルの上には付箋だらけの文献が積まれている。


 
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