【完】君しか見えない
時が止まったように、息することを忘れてた。
心臓の音はまだ落ちつかない。
視線を上げると、楓くんがポケットから取り出したスマホに視線を落としているのが見えた。
どうやら、電話ではなくメッセージの着信らしい。
なぜか固まったようにディスプレイを見つめる楓くん。
一方私は緊張のあまり、そんな楓くんの変わった様子にも気づかず、どうにか空白を作らないようにと饒舌に語りかけた。
「か、楓くん、背伸びたね!
私とちょっとしか変わらなかったのに、今は見上げなきゃだし!
でも昔と変わらずかっこいい!」
……ねぇ、やっぱり少し痩せたかな。
背伸びをして、手を伸ばした。
それは、何気なく。
ぽんぽんって、昔よくやったみたいに楓くんの頭を撫でようとして。
だけど、楓くんの柔らかい髪に触れることはなかった。
触れる寸前で、手首を掴まれていたから。