【完】君しか見えない




バス停を出発して、十数分後。



「懐かしいねぇ」



「俺も久々来たわ」



私と楓くんの眼前には青い海が広がっていた。



最初の目的地は、家の近くにある海。



小・中学生の頃、よく学校終わりにふたりで立ち寄っていた。



穴場だということもあるけど、さすがにこんな寒い日に海に来る物好きなんて私たちだけみたいで、まわりにはだれもいない。



ふたりきりの砂浜を、歩幅を揃えながら歩く。



寄せては返す波の音が心地いい。



「楓くんが転んだ私をおんぶして、この砂浜歩いてくれたの、すごくよく憶えてる」



「おまえ、昔よくこけてたもんな。
なにもないところですらこけるんだから、ある意味才能だよ、あれは」



「高校の入学式で転んだのは恥ずかしかった〜。
もうね、顔から火が出ると思った!」



「ふは、それはヤバい。
めちゃくちゃ想像つくんだけど」



「笑いごとじゃないよ〜!
ほんと恥ずかしかったんだから」

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