【完】君しか見えない
その時のことを思い出して自分の失態を恥じていると、ふと楓くんが腰を少し折って私の顔を覗き込んできた。
その顔には、なにか悪巧みを思いついたような、いたずらっ子みたいな笑みが浮かんでいて。
「なぁ、十羽。
懐かしいことしたくね?」
「懐かしいこと?
それいい!したい!」
ワクワクせずにはいられない提案に、先程までの羞恥心なんて一瞬で忘れて興奮気味に賛成すると、楓くんがこちらに背を向けてしゃがみ込んだ。
「はい、おんぶ」
「えっ、いいの?」
「いーよ」
「わ、やった〜!」
体を預けるように、楓くんの背中に掴まる。
すると足が砂浜から離れ、ふわりと体が宙に浮いた。
「楓くんのおんぶ、久々ー」
「俺も、だれかおぶるの久々だわ」
「ほんと?」
「おまえしかおぶったことねぇし。
特等席だよ、十羽ちゃんの」
「へへ、ありがとう」
「彼氏ですから」
楓くんの言葉が嬉しくて、くすぐったい。