【完】君しか見えない


ぺたんと頬を背中にくっつければ、あの頃から変わらない楓くんの安心感が体を包み込む。



ふと、楓くんの温もりが、あの日の温もりと重なった。



──小学校に入学したてのあの日。



私は案の定、放課後に楓くんと寄り道したこの砂浜で転倒してしまった。



その拍子に流木に膝を打ちつけてしまい、膝がじんじんと痛む。



『うう……痛いよ……』



座り込んで泣いている私の膝についた砂を払い落としながら、楓くんが優しく微笑みかける。



『大丈夫だよ。
僕が十羽ちゃんの涙止めてあげるからね』



『ぐすっ、え……?』



涙を拭いながら顔を上げると、楓くんが勢いよく立ち上がり、その頃流行っていた戦隊ものの変身ポーズを決めた。



『ほぅら、十羽ちゃん!
楓スーパーマン、参上!』



『楓、スーパーマン……?』



『うん!十羽ちゃんだけのスーパーマンだよ!
さぁ、僕の背中に乗って!
僕の背中に乗れば、十羽ちゃんのお家までひとっ飛びだよ!』

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