【完】君しか見えない
と、その時、ピーッと笛の音が鳴り響き、試合が始まることを知らせた。
「楓くん、頑張れーっ!」
前の3人組は、もう楓くんの応援へと切り替えている。
私も人と人の隙間から、コートを見つめる。
ボールを受け取り、ドリブルをしながらコートを駆け巡る彼。
「楓くん……」
意図せず声が漏れたその時、コートを駆けていた楓くんがこちらを見た。
「……っ」
たしかに、視線が交わった。
一瞬目が見開かれ、眉間にわずかにしわが寄ったかと思うと、次の瞬間にはもうボールの方へ向けられていた。
まるで目が合ったのが錯覚だったのかとでも思うほど、なにごともなかったかのように。