【完】君しか見えない
……キーンコーンカーンコーン
授業開始を知らせるチャイムが鳴る。
だけど私たちはそれを教室ではなく、桜の木の下に並んで座って聞いていた。
『授業、始まったね』
『原ちゃんの授業、眠くなるんだよなー』
『あの低い声、催眠作用あると思う』
『あー、絶対あるね、それ』
『ふふ、でしょーっ?』
くすくす笑い合っていると、不意に右手に温もりが触れた。
楓くんの白くて綺麗な手が、私の手を包み込むようにぎゅっと優しく握っていた。
そして私の顔を覗き込むように顔を傾けて、安堵したように微笑む。
『良かった。笑ったね、十羽。
どうしたら十羽が笑うか、ずっと考えてたから』
楓くんのサラサラな黒い髪が、柔らかい春風に揺れる。
長い睫毛が縁取る色素の薄い瞳が、宝石みたいにキラキラ輝く。
目の前にある景色があまりにも綺麗で、息が詰まりそうになる。
なんで、なんでそんなに温かいんだろう。