円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
エリノアはトーマスに、
いきなり握手を求められて戸惑った。
彼の礼儀作法は、
酷いものだったけれど、
彼女はそういうことに、
まったく無頓着だった。
トーマスは、エリノアが拒まないのに
気を良くして、しくじった事は、
気にせずに自由に振る舞っていた。
エリノアを独り占めし、
彼女の体に触れたり、
親し気に笑いかけた。
その場にいる人が、トーマスの様子を見て、さらに眉をひそめた。
そして、彼ら二人とも口の悪い婦人たちの
噂のタネになった。
幸いにも踊り疲れたのか、
二人はバルコニーに出ていった。
空気は冷えていてしんとしている。
トーマスが、
エリノアに顔を近づけて言う。
「こっちに来てから、
こんなに楽しかったことはないよ」
「ええ、そうね」
エリノアも息が上がっていた。
ほんのり、顔を赤らめて言う。
「エリノア?
君は、ブラッドリー卿と従兄っていう
ことは、君の家も地主か何か?」
「ええ、そうよ」
「君は、ブラッドリー卿と何かあるの?」
「どういう意味?」
「ごめん、誤解を与えるよね。
こんな言い方すると。
例えば、婚約しているとか?」