円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
エリノアが、姉のもとに駆け寄った時に、どこからともなく蹄の音がしてきた。


エリノアは、どっちの方角から聞こえてくるのか、耳を澄ませた。

屋敷の方じゃない。

エリノアの背後から聞こえてくる。


彼女は、のんびり車輪をきしませてくる馬車音や、荷馬の音なら気にしない。

けど、速足でこっちに向かってかけてくる馬は別だった。


蹄の音は、はっきりと聞こえて来た。
すでに相当近くまで来ている。


多分、敷地内の林の中を抜けて来たのだろう。


それなら、誰だかわかる。

エリノアも緊張を解いた。

うちの領地の裏側から堂々と馬でやってくるのは、従兄のウィリアムに違いない。

この、軽やかな蹄鉄の音。やっぱりウィリアムだ。


そうこうしているうちに、姿が見えて来た。

彼の馬は、この辺で見かける馬とまるで違っている。

こっちに向かって走ってくるのは、アンダルシアンの芦毛。

ウィリアムが好んで乗る馬だ。
長い背中と厚い胸。
それにウェーブのかかった、たてがみをしている。

本当に美しい馬だ。


ウィリアムが馬でかけてくる様は、優雅で高貴でもある。

馬は、彼の道楽の一つで、遊びで乗る馬だけでなく、アンダルシアンのような軍用馬も飼育していた。

ブラットリー家が馬の品評会だの、競技会をやるのも遊びだからではない。

有事の時には馬が必要になる。

普段から、そういう時に備えているのだ。


姿が見えたと思った頃には、馬に乗った若武者のような男がもう目の前にいた。

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