円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
舞踏会は、もともとヨーロッパの上流階級の社交の場として発展してきた。
人が集まって、ただ踊りを楽しむ場所というだけでなく、若い紳士や淑女の出会いの場所でもある。
会場に来た、多くの着飾った招待客を眺めるのも楽しいけれど、
若い男性と触れ合いながら、ワルツのステップを踏むのは、考えただけでもワクワクする。
普段、多くの監視の目が張り巡らされる、若い女性にとって、
大っぴらに男性と手を取り合って、話ができるのは舞踏会の場しかない。
どんな男性と何を踊るのか、今から考えただけでも、メアリーの胸が高鳴る。
もちろん、誰と踊るのかなんて、自分で決められるわけじゃないけど。
楽しみは、舞踏会で踊ることや、そこに着て行くドレスを選ぶだけではない。
会場は、レイランド伯爵家の、広大なお屋敷で開かれる。
この期間に限り、屋敷のさまざまな部屋が開放されるから、
招待客は屋敷の中を見ることができる。
何しろ、この辺りの一番の伝統と、格式を誇る見事な館だ。
その豪華な装飾が施された、屋敷の内部を見るだけでも楽しめる。
それに、舞踏会では、贅沢な食材を用いて作られた料理が、惜しげもなく振る舞われる。
伯爵家のフランス人シェフが、腕によりをかけて作った料理がたっぷり食べられる。
それも楽しみの一つだった。