円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
「危ないから、降りなさい」
と声をかけられた。
逞しい腕がすっと伸びて来て、
エリノアの体を抱き上げる。
彼女は、声を上げる間もなく両手で、軽々と持ち上げられた。
彼女を持ち上げたのは、
エリノアの従兄、
ウィリアム・ブラッドリ―。
彼は、ブラッドリ―侯爵家の若き当主。
古くから、国内外の警備を主に
任されてきた、
武門のほまれ高い家柄の出である。
彼は何年か前に、亡くなった父親から
爵位と財産を受け継いだ。
先祖の例に漏れず、
彼も軍人らしく鋭い目つきに、
鍛え抜かれた
若武者のような体つきをしていた。
中身も、勇敢な軍人そのもの。
おまけに血の気の多い
ブラッドリー家の血を引いている。
「ウィリアム!何するの?」
彼にとって、エリノアのような
小娘一人抱き上げるのは、
何でもないことだ。
エリノアを持ち上げると、
ふわっとして、とってもいい感触がした。
他の女性には感じない、
心地よさを感じる。
彼には、それが何なのか
よくわからなかった。
よくわからないこと。
ウィリアムはどうしても、
それが気になった。
うやむやに済ませられない、
キッチリした性格なのだ。
でも、彼は感情をしっかりと
コントロールする方法を身につけている。
一流の軍人とは、そういうものだ。
彼は、常日頃からそう考えている。
エリノアの柔らかな体を、
しっかりと腕に抱きとめる。
彼は、エリノアを抱いたまま、
この腕に抱いた感じが
どうだろうかと考えた。
「他に取りたいものは?エリノア」
いい匂いだ。
髪の毛から香ってくるのか?
彼は、端正な顔をエリノアに近づける。
「ウィリアム、ありがとう。
もういいから降ろして?」
「エリノア、こんな不安定なものの上に乗って、崩れたらどうするんだ?
取りたい本があるなら、
ほら、早く言ってごらんなさい」
ウィリアムは、
まだ腕から彼女を離そうとしない。
「ウィリアム、本当にもういいのよ。
とにかく床に降ろして」
彼は、ゆっくりと彼女の足が
付くところまで降ろしてやった。
彼は、エリノアがとっさに
戻してしまった本を、
書棚から取り出して、彼女に渡した。
「これでいいのか?」
「ええ。ありがとうございました」
「どういたしまして」