円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
メアリーは屋敷に到着する前から、
景色をじっと眺めていた。

エリノアの目には、
ただの田園風景が広がっている
だけだが、メアリーにはまるで
違って見えるらしい。

彼女は、おとぎ話の中に入り込んだ
小さな女の子のように、
うっとり自分の世界に入り込んでいた。


伯爵家の邸宅に近づくにつれ、
目に入ってくる景色も、
無造作な自然の美しさから、
人工的に計算された美しい庭園へと
変わっていくことに、
エリノアも気が付いていた。

はるか向こうには、
先祖が敷地に建てた、
真っ白な古代ギリシャ風の
モニュメントが見える。


緑豊かな敷地を右手に曲がると、
広大で美しい敷地の中から
壮麗な建物が見えてくる。


「うわっ、なんて素敵なの」
メアリーは、ここに来るたびに
こんなふうに声を上げる。

また、エリノアもまったく違う理由でこの景色を素晴らしいと思う。

屋敷も大きな建物であるが、実際よりも大きく感じて見える。

屋敷を取り囲む林、目の前に広がる池、
その背後にそびえるレイランド邸は、
さながら一国の城のように見える。

事実に反して、
屋敷が大きく見えるのはどうしてだろう。

毎度そのことを考えて、
いつの間にか馬車は屋敷に到着する
頃合いになる。


「エリノア、やっぱり、
本当に素晴らしいわ」

「そうね。その言い方。
ブラットリー家の人たちの前では
言わない方がいいわ。
必ずへそを曲げるんだもの」



メアリーがそういうのも仕方がない。


屋敷は、左右対称に翼を
広げたような形をして、
優雅な姿を見せている。


元々は、灰色をした建物だっらしい。


それが、何年か前に屋敷の改築の時、
外観をすっかり真っ白に塗って
しまったんだそうだ。

だから、針葉樹の林の背景の前に、
真っ白なお城が、森の中に
浮かんで見えるようである。
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