円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~

馬車はレイランド邸の真ん前、
正面玄関に横付けされた。

フットマンたちがやって来て、
さっと、馬車の扉をを開けてくれる。

彼らは、先に下りようとした
メアリーには、恭しく
お姫様でも扱うように傅いて世話をした。

今日も本当にきれい。

ドレスも、髪も完璧に仕上げて来た、
輝くばかりのメアリー。


エリノアは、
しばらく姉の姿に見とれていた。


彼女は、フットマンが姉と同じように
手を差し伸べてくれるのを、
馬車の中でじっと待っていたが、

フットマン達は、
手を差し出しに近づくどころか、
怪訝そうにエリノアを見つめてる。


何をしているの?


そう口走りそうになって、
ようやく思い出した。


自分は、すでに
メイドの制服を着ているんだった。


エリノアは、自分で馬車を降りると、
知らん顔していた
フットマンを睨みつけた。

まったく、着ているものが違うだけで、
何て理不尽な対応するのかしら
とエリノアは腹を立てる。

彼女は、姉に続いて
いつものようにホールボーイの前を
通り抜け、ホールに入って行こうとした。




「エリノア……さま」


後ろからアリスの声がした。

声がしたと思ったら、
アリスが彼女の制服を、いきなり
引っ張ったので、
エリノアは、前につんのめった。


何するの、無礼者と
口走りそうになって、
彼女はもう一度、自分が置かれた
立場を思い出した。



正面玄関から、堂々と入って行くのは、
招待された客だけだ。


使用人が堂々と入って行ってはいけない。

自分から言い出したのだ。
誰かを責めるわけにはいかない。


「エリノア様、
私は、メアリーお嬢様の
お世話をしてきますから、
しばらくジョンと一緒に
いていただけますか?」
と、アリスが息を弾ませて
小さな声で言う。

彼女は、
わかったわとアリスに耳打ちした。


エリノアは、
メアリーに別れを告げると、
御者席にいるジョンといっしに
屋敷の横に向かった。



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