円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
通用口に向かって、
荷物の長い列が伸びていた。
荷物とは、貴婦人が舞踏会に
招かれるのだから、
晩餐の時の夜会服、普段使いのドレス。
午前に着る服、午後に着る服、
それからアクセサリーに至るまで。
着替えてばっかりで、
舞踏会が開かれている間は、
何にもできないという、
恐ろしい時間が始まる。
あれだけ着替えるのだ。
恐ろしい数の服とアクセサリーが、
詰め込まれているに決まっている。
ジョンの言う通り、
メアリーの荷物はすぐに見つかった。
アリスがエリノア様は、
メアリー様と一緒に馬車に乗って下さい。
その時は、気にも留めてなかったけど、
本来なら使用人は、
彼ら専用の馬車で荷物を運んで移動する。
エリノアも本物のメイドなら、
アリスと一緒に使用人の馬車で
移動しなければならなかった。
「知らなかったわ」
エリノアは、
周囲に聞こえないようにつぶやいた。
ジョンがいつの間にか戻って来ていた。
こいつだけは、エリノアが
どんな服装でいても変わらない。
不思議な男だ。