キス税を払う?それともキスする?
 玄関に入ると南田は、はぁーっと盛大なため息をついた。
 そんなに今日は呼びたくなかったのかと落ち込んでいると振り返った南田が近づいて来る。

 なんとなく後退りしてもすぐ後ろのドアに阻まれた。

 忘れてたわけじゃないけど…認証…。

 顔をのぞきこまれて目が合うとドキッとする。わざとなのかと思えるほどに、ゆっくり近づく顔に余計に緊張した。

 すぐ近くまで迫った顔がフッと息を漏らして「目は閉じないのか?」と言うのに目を離せなかった。

「まぁいい」とつぶやいたくちびるはすぐ近くで、言葉を発する度にかかる息にドキドキする。
 目を閉じるとそっと柔らかくくちびるが触れてすぐに離された。

 ピッ…ピー。認証しました。

 華は音とともに崩れるようにその場に座り込んでしまった。
 つかもうと差し出した南田の手が空を舞う。

「大丈夫か?しかし…しばらくここにいてくれ。」

 そういうと華を置いてリビングの方へ行ってしまった。

 玄関に認証の機械があるのは、いってらっしゃいのキスをするためなのかな。
 そんなことが頭に浮かんで余計に恥ずかしくなった。

 しばし待っても南田は戻ってこなかった。

 どうしたんだろう。何か私に見られてはいけないものが?いやいや。
 それならそもそもマンションに呼ばなければいいわけで…。

 考えていても答えの出ない華はリビングのドアに手をかけた。

 南田さんならドアの向こうで、はた織り機で着物を織っていても驚かないかもね。

 鶴の姿で「決して見ないでくださいと申しましたのに…」って。

 思い浮かべた想像にフフフッと笑うとドアを開けた。
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