アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 見た目こそ大人びて見えるスズラン。
 しかし性格は歳相応……と言うよりも少々幼い。黙っていればそれなりに見られるものの、一度でも会話を交わしてみれば明白だ。更にそれを指摘されると途端に顔に出て頬を膨らませる様はやはり〝お子様〟なのであった。

「あ、エリィさん。葡萄酒と一緒にお出しする小皿料理(タパス)にお好みはありますか?」

「ンー、そうね。じゃあ何かさっぱりした物でお願い出来るかしら?」

「かしこまりました! すぐにお持ちします」

 エリィが注文するとぱっと花が咲く様に笑顔になり、カウンター奥の厨房へと入るスズラン。さして時間もかからずに戻ってくる。
 手には葡萄酒が一瓶と小皿料理(タパス)が乗った銀盆。

「まあ、とっても素敵! これはなんてお料理なの?」

 葡萄酒はもちろん、小皿料理(タパス)に注意を向けるエリィ。

「色々なお野菜を使ったサラダ(ピカディーリョ)です。細かく刻んだお野菜とオリーブ油で油漬けしたお魚をオリーブの実で和えたものです。でもお酢がきいてるのでさっぱりしてると思います」

「っ美味しそうね! さっそく頂くわ」

 輝かんばかりに顔をほころばせたエリィを見て、スズランも嬉しくなった。
< 19 / 514 >

この作品をシェア

pagetop