アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 相手に負担をかけさせてまで手に入れる幸せなど本当に心から幸せと言えるだろうか。ライアにはもっと聡明で機転の利く、互いの存在を支え、高め合える女性が相応しい。それはきっと自分ではない。こればかりは変えられないと言うのにまた胸が苦しくなる。
 ただ無茶ばかりさせて、その上何も返せない自分が情けない。様々な感情が混ざり合い、苦しくて息が出来なくなる。
 せめて、ひとつでも自分に出来る事。それが此処に留まる事だから……。

「っ……ごめんなさい」

「嫌だ! スズラン…!! 俺は…っ」

 ライアの瞳に悲しみが満ちていく。
 そんな顔をされたら決心が鈍りそうだ。
 こうして何度も夢の中にまで会いに来るなんて、本当に無茶ばかりするライア。そこだけは心配だが、彼の周りには助けてくれる人が沢山居る。だからきっと───

「さよなら、ライア……」

 硬く瞳を閉じると涙がひと粒、またひと粒と零れ落ちた。



 ───

 ──────

 

「───っ! スズラン!!」

 自らの喚声で我に返る。静けさで満たされた空間に荒い呼吸が響く。
 一瞬理解が追いつかなかった。しかし最後に聞いたスズランの声が耳から離れない。
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