アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
ごめんなさい───
さよなら───
それは完全な拒絶に思えたが、目尻に光る涙をラインアーサは見逃さなかった。
夢の中とはいえ、彼女と言葉を交わしたのは久々でやっとスズランの〝自我〟を見つけたというのに。抱き締めてもすり抜けて行ってしまう。
「っ…くそ」
己の不甲斐なさに心底腹が立つ。
視線を下げると、小さなベッドの上で静かに眠るスズランがそこに居た。握ったままの手はまだひんやりと冷たい。瞳は再度閉じられていたが、やはり目尻は濡れている。ラインアーサは指で涙を優しく拭うと、眉根を寄せながらスズランの瞼へと唇を落とした。
もっと……。
「もっと君を俺で埋めたい……」
スズランが感じている不安を取り除いて、何も心配な事などないと伝えに行かなければ。記憶の奥底までもっと、君と混ざり合えたら。もう一度、何度でも。
「君がくれたんだ、俺の生きる理由を。だから俺も返しに行く、何度だって───」
絶対に諦めない。
これ以上、一人で泣かせたくない。
スズラン。君に、笑ってて欲しいから。