《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

首輪飾り


 妙に胸がざわついた。

 〝此処〟(夢の中)には良い思い出ばかりでは無く、恐ろしい記憶も混在しているのだと直感する。それは当たり前の事だ。

 この夢からは逃れられない。悪夢の様なこの記憶からは──。


 警鐘の様な酷い頭痛は治まったというのに、スズランの胸は早鐘を打つのを止めなかった。ライアや王宮の医師が懸命に適切な処置を施してくれた為、あの寒気も息苦しさもない。では何故こんなにも不安に怯え、震えているのか。
 スズランは不安要素の一つである〝物〟にそっと触れた。自身の首に嵌められている黄金色の首輪飾りだ。

(こ、これ……)

 何時から、何故身に付けているかも分からない、物心ついた頃には既に首に嵌められていた。美しい模様が薄く彫られているが繋ぎ目が一切なく、今まで一度も外した事がない。いや、外せないと言った方が正しい。それでもスズランのか細い首筋に良く映えていた。

 もう一つの不安要素はたった今、部屋の外で起きている。扉を一枚挟んだスズランの目の前では、どうしてかライアとその側近である筈のハリが対峙していた。しかもライアの身体には硝子の破片が無数に突き刺さり、傷口からは多量の鮮血が滴っているのだ。
 何故このような事態に陥ったのだろう。
 何かとてつもなく嫌な予感がする。


「──すぐに済むからそこで大人しくしてればいい」
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