ぼくのセカイ征服

だんまりを決め込み、傍観者としての立場を貫いていた少女は、男の声を聞くと、素早く僕の後ろに隠れた。
いや、いくら背が小さいからといっても、僕の後ろに隠れたくらいでは丸見えだからな。
つまり、僕の後ろに隠れる事は無意味…でもないみたいだった。
少女が後ろに隠れた事で、自然と、男の視線が僕に集中する。要するに、少女は、男の最初の攻撃対象になる事を免れたワケだ。
…って、僕はどうなる！？哀れな犠牲者確定！？
僕の心配をよそに、男はいきなり殴り掛かってくる事もなく、じりじりと僕達に近付いてくる。

「さぁ…、痛い目に遭いたくなかったら、大人しくそいつを引き渡せ…」

この男、もう呼吸が安定している。相当な運動能力だ。絶対、勝てない。

「時任君、貴方、また厄介事に巻き込まれているの？私まで巻き込まれるのはゴメンだわ…それじゃあ…」
「スミレ、僕達を見捨てるのかっ！？」
「見捨てるだなんて、人聞きの悪い…。私には私のスケジュールがあるのよ。」

だからって、自分だけ立ち去ろうとするなんて、何と薄情な。行かせるかよっ！

「スミレ！僕達はもう運命共同体も同然だろ！？それに…」
「さっきから何度も何度も私の事を呼び捨てにして…。気安く呼ばないで！私はあの時、貴方と訣別したの！」

…そういえば、そうだった。スミレと僕との間の距離と関係は、今は本当に、曖昧で、歪なモノとなってしまっていた事に、僕は改めて気付かされた。僕とスミレの関係が、昔はどのようなものだったかについては、深く話し始めると長くなるので、それはまたの機会にしよう。
とにかく今は。
この危機を乗り越えなければ。

「相談は終わったか…？何なら、もっと決断しやすくしてやってもいいんだぜ？」

しばしの間無視されていた男は、突然、言葉を発すると、それと同時に、急にこちらへ突進して来た。
そして。

「おおぉらあぁッ！」
「うあっ…！かっ…はっうぅ…」

僕の鳩尾を思い切り殴った。衝撃が僕の体を貫く。『体格の良い男が突進の勢いに乗せて放つボディーブロー』に耐えられるほど、僕の肉体は強くない。
…痛い。すごく痛い。思考の９８％が痛みに支配されている、そんな感覚。
さらに。