ぼくのセカイ征服
…!今、ふと思ったが、コイツ、まさか僕とコトハの齟齬のほぼ一部始終を見ていたのか!?もしくは、聞いていたか。
まぁ、どちらにせよ、僕がことのいきさつを説明する前から、コイツがその説明の大部分を予め知っていた事を否定出来ない事に変わりはないな。

何故そんなに疑ってかかるのかって?
簡単な話だ。スミレは、『盗み見や盗み聞きが得意』なのだ。そして、あたかも自分は盗み見たやりとりや、盗み聞いた話の内容を知らないかのように振る舞う。昔、この特技には何度か驚かされたものだ。
――おっと。色褪せた追憶に浸る前に、話を戻そう。
…スミレが、コトハが泣いていた事を知っているという事は、少なくともコトハと擦れ違ったという事だ。この時点で、スミレが僕とコトハの会話を教室の近くで立ち聞きしていた可能性が発生する。
まったく、悪趣味にもほどがある。何が楽しくてそんな事をするのだろう?
ん…?待てよ。そもそも、スミレはどうしてここに来たんだ?
今、ここにいる事――それは、スミレが自ら、自分の教室から離れたこの教室にわざわざ訪れた事を意味するわけだ。
…一体、何をしに来たんだろう?
まさか、話を盗み聞きするために来たわけではあるまい。第一、僕がコトハと言い争う事を予め知る事は超能力者でもない限り不可能なんだし。
よし、本人に聞いてみるか。それが一番手っ取り早いだろう。
…もちろん、コトハとのいさかいの解決策を見出だしてからだが。

――それにしても、泣いていた、か。本当に、悪い事をした。
何だか、今になってようやく、自分は取り返しのつかない事をしたのだという罪悪感と悔恨の念が沸々と沸き上がって来た。

僕が自責の念に駆られていると、しばらく沈黙に徹していたスミレが急に言葉を発した。
しかも、これまでにないほど真剣な表情を伴った、重い口調で。

「やはり、セクシュアル・ハラスメントを…?」
「それはいわゆるセクハラの事だろっ!略した語句を略す前に戻しただけで、あたかも別の言葉のように扱うのはやめろっ!」

それに、セリフが全然口調や表情に合っていないぞ!?(これは、ありきたりなツッコミなので、敢えて口に出さないでおいた。減点は懲り懲りだ。)
しかし、やけに神妙な面持ちが腹立たしい事この上ない。一体、何を考えているんだ、コイツは?
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