ぼくのセカイ征服
――先刻、自分が自分ではなくなったかの様な感覚に囚われたのだが…そうか。あまりのショックに、落ち武者化していたのか、僕は。
うんうん、それなら一瞬、何を口走ったかの記憶がないのにも頷ける。

…いやいや、そんな事はどうだっていい。今、重要なのは、何故スミレが僕の部活に入ったのか、という事だ。決して、僕が落ち武者化した事ではない。
…はず。

「それで、どうしてチャリ部に…?」
「……それは…」
「それは…?」

『あの』スミレが部活――しかも、僕の部活に入る事になるとは。彼女は、何をどのようにまかり間違ったのだろうか。
一体、何が彼女をそうさせたというのだろう?
一体、どんな背景があるのだろう?本当に、気になるところだ。

スミレは、焦らすようにゆっくりと口を開き、言葉を紡いだ。

「…恩を売っておいたほうがいいと思って。」

スミレは、そう言って口の端を吊り上げると、無言で『入部証明書』を鞄にしまった。

「…それが、理由?」
「ええ、そうよ。」

――正直、面食らってしまった。まさに拍子抜けだ。
スミレの入部に、深い理由はなかった。
まぁ、僕が気付いていないだけなのかもしれないが、とりあえず、彼女の言動などの表層からは何も『裏』は見えてこない。

「人を怒らせるのが得意な貴方のことだから、今日までに集まったのは、私を含めてギリギリ5人なのでしょう?」
「よ、よくわかったな…」

言われてみれば、確かにそうだ。僕にコトハ、瓜生兄(普段はシュンと呼ばないといけないが)、瓜生妹、そしてスミレ…集まったのは、調度5人。しかも、時間もかなりギリギリ……

…ん?待てよ…って事は、部活存続!?
スミレの素っ頓狂な答えのせいでなかなか実感が湧いてこなかったが、これで、晴れて早々の廃部危機は免れたわけだ。
素直に喜んでも…いい、だろう。こんな時くらいは。
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