ぼくのセカイ征服

――ただ、一つ気掛かりなのは、夜中のメールについての話がシュンの脳内で勝手に発展し、ズレていた事だ。が、まぁ、深くは気にしないでおくか。面倒だし。

――なんて、息抜きがてら思慮を巡らしていると、不意に、僕は何か言い知れぬ違和感を背後に感じた。


――これは…視線、だ。
皆帰ったはずなのに、まだ、背中に誰かの視線を感じる。

気になった僕が視線を感じている方を振り向くと、そこには少し怖い顔をしたスミレが佇んでいた。睨む、とまではいかないが、案外鋭い目付きで、僕の動向をじっと窺っているようだった。

「…スミレ、どうかしたか?何でまだ帰らないんだ?」
「…『箭内さん』よ。」
「え、ああ…その呼び方については、まだ考え中だ。今はとりあえず『スミレ』と呼ばせてくれ。」
「『今は』、ねぇ…。それが『今だけ』、になる事を期待しておくわ。」
「…それは置いておいて、何でまだ帰らないんだ?という質問に答えてくれないか?」
「嫌よ…と言ったら、どうするつもり?」
「別に…僕はお前を無視して帰宅するだけさ。」
「珍しく強気ね…」
「でも、僕はお前を無視して帰れないけどな。」
「…?それは何故かしら?」
「だって、お前は僕の質問に答えてくれるだろ?」
「――貴方は、本当に変わったわね。あまりの急激で過剰な変わりぶりに、変化が一周して元に戻ってしまいそうな程に。」
「…何を言いたいのかが、全く見えてこないぞ?」
「…別に、何か伝えたい事があるわけではないわ。ただ、何となく、『変わった』貴方の後ろ姿を見ていたいという気になっただけよ。」
「へ…?ち、ちょっ…急に何を……?」
「…それにしても、出来た後輩を持ったものね、時任君。随分と、恵まれた平穏じゃない。本当に…本当に、ゆったりとした明るい雰囲気で…たまには、こういうのも悪くはないと思えてしまうわ。」
「これまた急に、話を変えたな…」

これでは、一瞬狼狽した僕が馬鹿みたいじゃないか。微妙に本気で照れちゃったし。

――しかし、僕はそんなに変わったのだろうか?正直、自分ではそこまで急激に変わったとは思わない。
まぁ、昔よりは『弱い自分』や他人とも上手く付き合えるようになったし、自ら『危険』に近寄ったりする事も少なくはなった(ここ最近はそうも言えないような気がする)が。
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