不埒なドクターの誘惑カルテ
 彼の様子に我慢できなくなった私は、ひと言悪態をついた。

「いい加減な人……」

 私は八つ当たりするように乱暴に机の上に置かれていたしょるをかき集め、イライラしながら自分の席に戻った。

 デスクの上は折り返しを依頼する電話メモや、上司のチェックから返ってきた書類で山積みだった。

「はぁ」

 大きなため息とともに、仕事にとりかかろうとすると背後から声をかけられた。

「坂下さん、月一回の巡回同行ご苦労様」

 振り返るとそこには、部長が立っていた。

 部長は異動前の営業所長と同期で、仲が良いらしく、異動後の私を何かときにっかえてくれた。ねぎらいの言葉に素直に同意する。

「はい。疲れました」

「ははは、正直だね。たしかに坂下さんには、束崎先生のお相手は厳しいかもしれないね」

 その部長の言葉に、私はとびついた。

「そうですよっ! 私には荷が重すぎます」

 今ここで言わなければ、二度とチャンスがないかもしれない。私は立ち上がって部長に懇願した。

「私、よりももっと適任がいるはずです」

 そんな私の言葉に反応したのは、部長でなく目の前に座る山辺さんだった。

「はーい、私が立候補しまぁす!」

 立ち上がり手をあげて、一歩前に出た。

 ふたりの女子社員に詰め寄られるような形になった部長は、しどろもどろに答えた。

「だめだよ、山辺さんは——」

「どうしてですかっ?」

 どうやら山辺さんは本気のようだ。もう一歩前に出て部長との距離を詰める。

「そ、そんな大きな声出さなくてもいいじゃないか。だって山辺さん、イケメン好きだろう?」

「はい、もちろん」

 彼女は自信満々に言い切った。

「だからだよ」


「は? 世の中にイケメンが嫌いな女の子なんていないでしょ?」

 その言葉を受けて部長がちらりと、私の方を見た。


「それが、ここにいるんだよ。ね? 坂下くん」

 同意を求められても「はぁ、まぁ」としか答えられない。


「えーーーー!」


 私が肯定すると山辺さんは、驚きの声をあげた。

「ど、どうしてですか? 意味わかんない」


「どうしてって……いろいろあってね、嫌いっていうか苦手っていうか……」
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