呪われ姫と強運の髭騎士
 泣いたわ、もう。
 
 セヴラン様は変わらずに優しかった。その優しさに頼ってはいけないの?

「……もう、泣きました」
 
 そう言葉を租借して、飲み込んだ。

「えっ?」
 
 その言葉はクリスの耳に届かなく、聞き返す。

「クリス様は私のこと……どう思っていらっしゃるの……?」
 
 ソニアの突然の問いに、クリスは驚いたように目を見開く。

 そして「まいったな」と一言呟いて頭を搔いた。

「今、私の気持ちどうこうの話ではなくて、姫君の――」
「どうして私の名を呼んで下さらないの? 『ソニア』と」
 
 構わずソニアは、今までの疑問をクリスに投げ掛ける。

「何故、ずっと私のことを『姫君』と呼ぶんですか? 名を呼ぶことで親しくなることを避けたいのではないのですか?」
「姫――」
「止めて!」
 
 ソニアの拒絶の叫びに、クリスは目を見開いたまま止まる。

「クリス様は、他に心を捧げているお方がいるくせに、それなのに私と結婚して……その方の想いを抱いたままに私といるの? それではセヴラン様のこと言えないじゃない! 自分のこと置いといて人のことを言うなんて……! 」
「それは――」
 
 明らかに動揺を見せたクリスにソニアは、パメラの聞いた噂は本当なのだと分かった。

「少なくてもセヴラン様は、求婚してくださいました。父であるパトリス王に報告したいと言ってくださいました。その態度は誠実でした。今夜、王にクリス様との婚約を解消してセヴラン様と一緒になりたいと願い出るつもりです!」
「姫!」
「もう構わないで!」
 
 ソニアはクリスの手を振り払い、その場から逃げ出した。
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