呪われ姫と強運の髭騎士
「お迎えに上がりました、ソニア様」
 
 そう会釈をして顔をあげたクリスを見て、ソニアはしばらく口が開いたままであった。

「クリス様、お髭が……。それに髪も……」
 
 クリスも目元周辺だけをかくすアイマスクだったので、その下――鼻や口、輪郭が分かる。
 
 ――あの耳の辺りから顎まで生え揃っていた髭は綺麗に剃られ、刈り取った麦畑のような短髪のヘアスタイルから一辺、伸びた茶髪を綺麗に撫で付けて揃えた彼の姿があった。
 
 ソニアのあまりの驚きようを見たクリスは、気恥ずかしいように頬を掻く。

「そんなに変わりましたかな?」
「ええ、別人かと……」
 
 マスクを付けているせいもあるが、声を聞けばクリス本人だと分かるのだが、あまりにも印象が違う。

「まあ、あの姿は悪魔退治のコスチュームだと考えていただければ……と、」
 
 でも、とクリス。

「結構気に入ったので、しばらくは髭つき短髪でいようかと思ったのですよ――そしたら」
 
 クリスは、忌々しいそうに髭を生やしていた顎を擦る。

「『お守り』だ『厄除け』だの『縁起物』だの言って、周囲が容赦なく抜いていくんですよ、髭……。それだけでは物足りないと言わんばかりに、髪まで抜こうとして……!」
「……まあ!」
「痛いの何の! もう生やしてられなくて剃ってしまいました。髪は禿げるのは勘弁して欲しいので伸ばしたわけです」
 
 理由を聞いてソニアは、しばらく茫然としていたが……

「まあ、やだ、大変でしたのね、クリス様」

 と手を口に当てて、クスクスと笑いだした。

「いやあ、本当に! しばらく顎周辺は血だらけになりましたよ」
「お手紙に書いていただきたかったわ。肌荒れに効く塗り藥をお送りしたのに」
「そうでしたな、それは気付きませんでした」
 
 二人でひとしきり笑うと、クリスが腕を差し出す。

「さあ! 今夜は充分に楽しみましょう!」
「はい!」
 
 ソニアは返事をすると、クリスの腕に手をかけた。




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