呪われ姫と強運の髭騎士
「ええええええええええええええええ!!!」
 
 あのつるりとしたきめ細かい柔肌。

 細い腰。

 皺もシミも見当たらなかった顔。

 垂れていない胸。

 白髪の無い艶々した黒髪。

「嘘だ!  アニエス、お前!  年増と言われて悔しくてそんな嘘を付いて!」
「嘘も何も、真実以外口にしていません」
 
 さらりと言い返したアニエスの横で、クレモンがまた衝撃の告白をした。

「ちなみに私は二十三。クララと同じ歳です」
「お前こそ嘘だ! どう見ても三十過ぎて――すいません」
 
 ガツンと、恐ろしい形相でクララが手にしていた杖で尻を叩かれて、思わず謝罪する。

「女は、外見で見てはならないということです。――それで引っ掛かったではありませんか」
 
 冷静な態度で坦々と述べるアニエスに、異論を口にする気はもう無い。

「……先を急ごうか……早く休みたい」
「セヴランが一番足手まといなの!」
 
 自分の夫を侮辱された恨みなのか、クララがキツイ一言を投げ掛けてきたが、僕の耳に入ってこなかった。

(もっと若いかと思っていた……。若いのに、白髪の目立つ年老いた旦那に自由を奪われてなんて言って、さめざめと……)

 よく思い起こしてみれば、それらしき兆候はあったかのかも。
 
 昼間の明るい時間に会おうとしなかったのは、日の下に出向くと化粧で隠せない皺やシミが分かるからか。

(もう、良い。ソニアに期待しよう……ソニアなら知ってるから、年齢詐称なんかないし)
 ――この哀しみを彼女に癒してもらうんだ。
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