呪われ姫と強運の髭騎士
 クリスは照れを隠すように、短く切った髪を掻き分けた。

「私は『結婚はしない』と宣言して、今までも結婚話を断っておりました。それは王もご存じです。なのに今回は強引に持ってこられましてね――相手がクレア家の姫君だと分かった時は『成る程』と思いましたが」

「クレア家の呪いのことはもう、皆様ご存じなのですね……」

「ソニア様が知らないでいられたのは、王立修道院の管理がしっかりとしているからでしょう。あそこのシスターは聡い方ですから」
「いずれにせよ、近いうちにソニア様のお耳に入るのでしょうね」
 
 執事頭の声音には悲痛さが込められていた。

「なるべくなら衝撃は少なくしたいものです。――私が結婚相手だと顔合わせした途端に気を失われて、あまりこれ以上姫君に心痛を味あわせたくないものですから」
 
 苦笑混じりに告げたクリスに執事頭はまた驚く。

「――そのようにはお見受けしませんでしたが……」
「いや、何……。私を嫌っているのは姫君ではないと考えておりますから」

「?」
 
 訳が分からないと、言いたげな執事頭に構いなくクリスは言葉を重ねる。

「私にも解せない内容が多いのです。とにかく『教皇』の夢見で私が選ばれたとかで。まあ、騎士は姫を窮地からお救いするのが昔からの習わしと言うか、私の騎士精神に乗っとったと言うべきか」
 
 ますます訳が分からないが、今現時点で詳しく話す気がないのは分かったので、執事頭は頷いてだけ見せて、階段を上がっていく。
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