呪われ姫と強運の髭騎士

(8)

「クリス様、お身体は本当に大丈夫ですか? 痛むところはありませんか?」
「掠り傷程度ですよ。よくて痣が出来る程度ですから、ご心配なく」

 
 日に日に生傷が増えていくクリスを見て、ソニアは心配に顔を曇らす。
 
 それに対してクリスは、彼女の憂慮につとめて明るい。
 
 というか、イキイキして輝いているように見える。

「何か城の厄災を、クリス様が一身に受けているように思えて、気が気じゃなくて……」
 
 ソニアがそう口にするのも無理はない。
 
 城内の怪奇現象は収まったが、今度はクリスの回りだけに怪奇現象が起き出したからだ。
 
 クリスがいく先いく先に。
 歩く先に何かしら起きる。
 
 馬に跨がっていたら突然、馬が発狂しクリスを振り落とするし――宙返りで見事に着地。
 庭を歩いていれば、今まで心配の無かった城の壁が崩れてクリスの頭上に落ちてくるし――華麗なステップで避ける。
 焚き火をすれば突風が吹いて、火種が彼の服に燃え移ったり――瞬時に引き裂いて焚き火の中に放り込む。
 研いた石を敷いた庭の道を歩けば、突然陥没するような――ついでにモグラを仕留めたり。
 
 ……下手すれば命に関わるものから――
 
 果樹園内で果物をもぎ取れば、果実の一斉投下の雨にあったり。
 歩く先々で転ぶように草が結んであったり
 
 クリスが使っていたナイフやスプーンの先が曲がったり――命に関わらないものまで。
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