反逆の騎士長様





私は、ロッド様の言葉につい動揺してしまう



「ほ、本当にすみません!

初めてで、キスのやり方が分からなくて…」



「え?」



ロッド様が、無意識に出たような声を発した。



…?



私が、きょとん、としていると、ロッド様ははっ、としてまばたきをした。


そして、彼は小さく呟く。



「…初めて…だったのか。」



…。


もしかして、二十歳にもなってキスの一つもしてこなかった私に引いてるのかな。


どこか深刻そうな顔をしているロッド様に、私は部屋を出て行きながら声をかけた。



「ロッド様はいつも通りなのに、私だけ焦って緊張しちゃって恥ずかしいです。

さっきのことは、お互いもう忘れましょう!…では、失礼します!」



「!」



私は、ほぼ言い逃げに近い形で部屋を出て扉を閉めた。


失態を犯した身で、これ以上ロッド様の近くにいれるほど心臓は強くない。



…ロッド様は大人だなぁ。

少しも動揺していなかった。



私は、軋むツリーハウスの廊下を歩きながらヴェルの元へと戻って行ったのであった。



**


《ロッドside》



───パタン。



部屋の扉が閉まる。


部屋に一人になった瞬間、去り際の姫さんの言葉が頭に蘇った。



“初めてで、キスのやり方が分からなくて…”



俺は、体を起こしてベッドに体を預けたままはぁ、と小さく息を吐いた。


その時、急にドンドン、と扉を叩く音がして顔を上げた瞬間、部屋の扉が開かれる。



「ロッド団長、ご無事ですか!」



「っ!」



そこには、真っ赤な短髪の青年の姿。

急いで来たようで、息が少し上がっている。


突然のラントの訪問につい驚いていると、ラントは俺に近寄りながら口を開いた。



「今、セーヌが部屋から出て行くのを見たので、急いで来ました。

どうですか?呪いの方は?」



俺は、真剣な顔をしているラントに答える。



「悪い、ラント。

この呪いはジャナルの魔力を直接奪わないと解けないらしい。」



「…そ、そうなんですか。」



明らかに落胆している様子のラントに、俺は穏やかに声をかけた。



「ラント。もう少しの間、お前を頼ることになるが、俺は必ず呪いを解いてみせる。

…俺について来てくれて、ありがとな。これからも、力を貸してくれるか?」



「!もちろんです!

俺は、ロッド団長の呪いを解くためなら、何だってしますから!」



力強くそう言ったラントは、すっかり元気になったようだ。


呪いが解けていなくても俺の意識が戻ったことに安心した様子のラントは、小さく呼吸をして改めて俺を見つめた。


すると、ラントが何かに気づいた様子で口を開く。



「あれ?ロッド団長、耳が赤いですけど熱でもあるんですか?」



「!」



俺は、つい目を見開いた。


そして目を閉じて息を吐いた後、小さく呟く



「…熱はない。…体は熱いけどな。」



「えっ!だ、大丈夫ですか?!」



焦るラントに、俺は顔を手で覆いながら言葉を続けた。



「…俺はまだ、キスされて平然としていられるほど、人間が出来てないんだよ。」



「え?今なんて言いました?」



「…何も言ってない。気にするな。」



俺の口から溢れた声は、誰の耳にも届くことなく、夜に包まれた部屋に溶け込んで消えていったのだった。


《ロッドside*終》

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