見えないなら繋いで
それから急にふ、と笑って込み上げる笑いを押し殺すように肩を震わせた。
しばらく俯いていた真壁くんは落ち着いたように顔を上げた。

「なんだ。俺の早とちりだった。てっきり失格かと思ってた」
「失格だなんて!私の方だよ。…付き合うのが初めてだからって、それを言い訳にするのはずるいって言われたの。誰と付き合うときも初めての相手なんだからって。だから私、もっと頑張るね」

そう笑顔で告げると、笑っていた真壁くんの顔がいつもの無表情になっていて、しかもなんだか機嫌が悪くなっていた。

「それ、藤倉に言われたの」
「え、なんで知ってるの?」
「……体育館で見たから」
「真壁くんいたの?」
「頭、撫でられてたよね」
「うん、慰めてくれて…」
「そもそもなんで俺のことが好きなくせに他の男の前で泣いてんの?それで余計俺のことはもう終わったのかって思ったんだけど」

怒ったような真壁くんは初めてで、詰め寄られると顔が近くてどんどん心臓が速くなっていく。

「あ、あの、それは真壁くんが告白されてるの聞いてしまって…ありがとうって言ってたから、もしかしたらフラれたのかなって思って…」
「…立ち聞きするなら最後まで聞きなよ。『ありがとう、でも彼女いるからごめん』って言った」
「そうだったんだ…」

やっぱり最後まで居れば良かった。
いや、でも立ち聞きは良くないから…っていうか、彼女、真壁くんが彼女って言った…!

真壁くんの口から「彼女」って言われるとなんか嬉しいのと恥ずかしいので落ち着かない。
絶対顔赤くなってる…。

両手で頬を隠すようにすると真壁くんが怪訝そうな顔で覗き込む。

「何赤くなってんの?…話逸れたけど。藤倉とはどういう関係?」
「藤倉くんはただの友達だよ…体育祭の実行委員会とか、キャプテン会議とかで一緒だったから…」
「ふーん」

真壁くんはまだ納得のいかないような返事だった。

ていうか何これ。
真壁くん、もしかして。

「…やきもち焼いてるの?」

なんて真壁くんに限ってそんなこと。

「だったら何。彼女の近くの男なんて不愉快なだけでしょ」

その一言に胸がきゅうっと締め付けられた。
真壁くんが、かわいい。

「だって、真壁くん私のこと好きなわけじゃ…」
「この期に及んで何言ってんの?」
「え…?」
「……好きだよ、デートの時から可愛かったし」
「ええっ」
「そこまで驚く?」
「だって…真壁くんて何考えてるか分かんないから…」
「まあそれはよく言われるけど…」

そう言って視線を下げた真壁くんは私の手を取って絡めるように繋いだ。

「!」
「俺の気持ちが見えないなら繋いで。伝わらない?」
「つ、伝わる…」

温かくて優しい私とは違う大きな手。
全部の神経が右手に行ったんじゃないかってくらい意識が手に注いでしまう。

「ま、真壁くん、私、手汗が…」
「離さないよ」

そんな。

嬉しいけど恥ずかしい気持ちでいっぱいになっていると、不意に手が離された。
寂しいような、ほっとしたような気持ちでいると、唐突に真壁くんの手が私の頬に触れた。


顔を上げて一瞬。

目の前に真壁くんの顔。

重なる唇。


「っ!!」
「これで許す」

パニックになる私に真壁くんは涼しい顔で笑ってポケットから取り出した包みを私の手に乗せた。

「えっ…なに…?」
「ホワイトデーのお返し」

それは可愛いラッピングがされたクッキーの袋だった。

「もう、真壁くん、私…頭が追い付かないよっ」
「いらないなら食べるけど」
「だめ!これは私の」
「必死じゃん。…無駄にならなくて良かったけど」

そう言って真壁くんは私の頭を撫でた。
その真壁くんの顔が優しくて、胸がドキドキしすぎて何も言えなくなってしまった。

クッキーも嬉しいけど、真壁くんと気持ちが繋がったことが何より心から嬉しくて。

一生忘れられないホワイトデーになったのだった。



-fin-








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