【B】眠らない街で愛を囁いて


しかも店長が聞いてたらどうすんのよ。



最初の面接のときに、この職場で出逢った人を「恋愛の対象」として見るなって
釘さされたはずでしょ。



だけど……これは、まさしく店長の中のタブーにはまりそうな危機感もあって。
だけど、やっぱの千翔さんが愛しくなる感情は抑えられない。




「はいはい。13時だよ。
 交代の人も来てくれたから、叶夢はほら、王子様と帰る。

 千翔さん、叶夢のこと頼みますねー」


そうやってカウンターから押し出された私はそのまま事務所で退勤処理をして店長に挨拶をすると、
更衣室へと着替えを澄まして千翔さんと何故か、アッパーフロアへと続く専用のエレベーターへと乗っていた。



エレベーターに入ってIDカードをかざして、何かを操作すると27階のランプが点灯する。


エレベーターのドアがあると、専用のゲートがあって、千翔さんはその前で1枚のカードを取り出した。
そこには千翔さんの会社らしき名前が入っていて、ゲストカードと記されている。


「叶夢、そのカードを此処に居れて画面を見てくれるかな」

言われるままに作業すると、機械が暫く動く。


「網膜認証登録させてもらったよ。後は指紋かな。
 ここに指を乗せて」

言われるままに指示された場所に指を置くと暫く、機械が何かの処理をしている音が聞こえた。


「仰々しくてごめんね。
 ただこのフロアになると機密事項が多いからね。

 このカードでエレベータも、ゲートも、俺の職場のオフィスの鍵も開くから」


そういって自らもIDカードをかざしてゲートをくぐった。



「こっち」


案内されるままにふかふかの絨毯の上を歩いていくと、
またまたカードを翳してロックを解除すると、ガチャリっと重たいドアが開く。



「どうぞ、入って」



そうやって言われたオフィスは、いくつかのデスクが並んでいて綺麗に整頓された空間だった。

千翔さんは奥へと奥へと歩いていくと、
そこに見えてきたドアをゆっくりと開いた。

室内にはベッドになりそうな大きめのベッド。
そこには毛布が無造作に置かれていた。



「千翔さん……」

「ごめんね。
 仕事で泊まる時に、ここで眠るんだ。

 えっと飲物必要だよね」


そう言うと何処かに電話をかける。
すると暫くすると、オフィスのベルが鳴る。


「ご注文いただきましたお品をお届けに参りました」

「今行きます」



千翔さんは「叶夢、そこに座ってて」っと毛布を片づけたソファーを指して、
そのまま外に出て行った。


ドアが閉じた途端、恐る恐るソファーへと腰をおろす。


そしてそのまま千翔さんがここで眠っている姿を想像してたら、
なんだかそのまま顔を擦り付ける様にソファーへと体を倒した。




……千翔さんの寝顔、可愛かったなぁー。もう一度見たいなぁー。




「叶夢?」



その声に慌てて勢いよく体を起こす。



「寝心地はどうだった?」


そう言いながら、千翔さんはクスクスと笑った。


「はいっ、飲物。下のカフェから配達してもらったんだ。
 ただカフェの店員さんは、エレベーター前のゲートまでしか入れないからね。
 取りに行ってた」


そう言うと、籠に入ったコーヒーを二つガラステーブルの上に置いた。



そして私の隣へと腰を下ろす。



「なかなか食事に行けなくてごめんね。
 今日の晩御飯でもどう?」

「えっ、ご飯ですか?」

「そう。あの時のお礼も出来てなかったし」

「お礼って言えば、私の方が助けて貰ってばっかりでお礼しなきゃです。
 そのこと、お母さんに話したらなんか、お礼しなきゃねって連絡先聞かれたんだけど
 私……千翔さんのこと何も知らなくて」



そう……千翔さんをどんどん好きになっていくのに、
私は連絡先の一つも知らない。


私が知ってるのは名前だけ。

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