【B】眠らない街で愛を囁いて


「そっかっ……スマホかして」


そう言うと千翔さんは私のスマホを操作して電話番号とメールアドレスを登録してくれる。

「かけてもいいですか?」

「勿論、叶夢の連絡先も俺に教えて」



耳元で囁くようにおねだりされるとそれだけでドキドキしてしまって、おかしくなりそう。
言われるままに電話帳から、千翔さんの名前を探すとフルフルと震える指でボタンを押す。


暫くしてコールが流れると、千翔さんはポケットの中から電話を操作して出た。



「もしもし叶夢。どうかしたの?」


隣にいるのに、そうやって電話に出る千翔さん。


「えっと……」

「何?会いたくなった?
 寂しくなったら、何時でもおいで?

 抱きしめてあげるよ」



その瞬間、ふわりと千翔さんの体が背後から私を抱きしめる。

ふんわりと鼻腔をくすぐる香水すら、
愛しく感じてしまう。



いつの間にか私は千翔さんに抱きしめられながらソファーで温もりをかみしめあった。



「叶夢、このままで聞いてくれる?」



そうやって聞かされたのはずっと千翔さんが抱えていた、
他人に理解されない力のこと。


千翔さんは、その力にずっと苦しみながら生きていたみたいだった。
だけど私と出逢ったことで、その力に苦しむ時間が減ったのだと言う。




「だけど……叶夢、俺が叶夢を気になるのはそれだけじゃないんだ。
 俺が……傍に居たいから。

叶夢……愛してるって言ったら、叶夢は俺を受け入れてくれる?」




千翔さんの突然の告白で私の脳内は完全にフリーズ。
ただ……真っ白な思考の中で、ただ一つ私が出来たことは首を縦にふること。



頷いた直後、背後から抱きしめていた千翔さんの体が離れたと思うと
向かい合う形で抱きしめられて、そのまま温かいものが唇に触れたのを感じていた。





もっと……もっと私の傍で愛を囁いて。
千翔……私を抱きしめて……。




その日、嬉し涙が流れ落ちることを知った。


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