【B】眠らない街で愛を囁いて


そして千翔さんが伝えてくれた。

私のことに惹かれていると。



愛されていると言うことをストレートに教えてくれる千翔さんは、
やっぱりとてもかっこよくて大人で。



そんな千翔さんに釣り合う自分になりたいって、
今日、心から思うことが出来た。


キスしてもらった時、嬉しかったけど、カサカサの唇で悲しかった。
ちゃんと織笑に教えてもらって、唇からケアしていきたい。


千翔さんが触れてくれるその場所を、
千翔さんに相応しいと思える私へと磨いておきたい。


湧き上がったいつもと違う私の考えに、
自分でも戸惑いを隠せなかった。



「叶夢……今度は俺の部屋へと来るかい?」


千翔さんが私を部屋へと誘おうとしてくれることが、
凄く嬉しかった。



翌日も千翔さんとは職場で顔をあわせた。
だけど千翔さんもお仕事が忙しそうで、慌ただしそうに出掛けていくのを感じてた。



「王子様、忙しそうだねー」

「ねぇ、織笑。私にメイクやファッションを教えて」


そうやって切り出す私に、驚きながらも楽しそうに頷いてくれる。


千翔さんと出掛けられない時間は、
私の女子力を磨く時間と称して、私はいろんなことに挑戦し始めた。



生まれて初めてかったメイク道具。

そして本屋さんに入っては、ファッション雑誌を隅から隅まで立ち読みして、
洋服屋さんへと向かう。


そんな私に付き合ってくれる織笑に、
千翔さんのオフィスへとお邪魔したこと。

53階のフランス料理屋さんに行ったこと。
千翔さんの御家族専用の部屋があったこと。


興奮したことを順番に報告していく。



そんな私に織笑は「頑張れ」っとエールをくれた。


「それでね、叶夢。
 今度、千翔さんが部屋に招待してくれるって言ってもらえたの」

「良かったね。叶夢。
 でもさ、千翔さんって品が凄くいいでしょ。

 どこかのお坊ちゃんなのは確実だよね。
 ふと思ったんだけど、このビルには52階に誰かが住んでるみたいに噂されてるけど、
 それが案外、千翔さんだったら……って考えると楽しいよね」

「うーん。
 でも52階ってエレベーターのボタンないんだよね」

「そうそう、何処に上り口があるかわかんないって言われてる」

「けどそれは流石にないでしょ」



噂話が大好きで些細なことでも妄想を膨らませる織笑に、
私は少し現実を見据えながらに否定した。


だけどまさかの、52階の住人が千翔さんだと知ることになったのは
夏休み初日のバイト帰りだった。




17時にバイトを終えた私は顔出してくれた千翔さんに誘われるままに、
一度お邪魔したことのある管理人室へとむかった。



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