【B】眠らない街で愛を囁いて



「あぁ、やっぱりどれだけ必死に仕事を頑張ってみても
 新しい子は少しでも経験の長い人に教えて貰いたいのかな。

 今、馬上さんに間違ったこと教えられても困るんで、
 織笑にしてくださいって言われちゃった」

「やっぱり今どきの奴らだな。高校生は口の利き方を知らん。

 まぁあいつらは今から社会経験を積んで成長していくんだ。
 いつか馬上も名桐の立場になって初めてわかるだろう。

 少なくても俺としても名桐をかっている。
 来月の給料から30円だが時給を昇給させよう。
 
 だからお前には期待しているよ」


その弱音に店長はモチベーションを上げるための言葉と昇給の話を降らせてくれる。



「有難うございます」



お辞儀をして再び、仕事へと戻る。


お菓子コーナー、雑貨コーナー、カップ麺や調味料コーナーに、
医薬部外品とドリンク用の冷蔵室。


狭い空間の中にぎっちりと数百種類の商品がつまった空間を必死に整頓し続けて、
私はその日の仕事も終わりを迎えようとしていた。



私のシフトが終わる直前、何時ものようにお客様として姿を見せてくれる千翔さん。



「叶夢、そろそろ上がりだろ」



私の傍に近づいてきて耳元で問いかける。



「うん。後、10分かな」



お酒の品出しをしながら千翔さんと会話をしていた時だった。




「えぇ、嘘嘘。千翔がどうしてここにいるの?」



そう言ってカウンターから飛び出してきて、
背後からおぶり去る様に飛び掛かる馬上さん。




えっ?
千翔さん……どういう事?




「って名桐さん、このビルが恋するビルって言われてるから
 千翔狙ってるんですか?

 信じられない。
 不謹慎ですよ。

 そんなモチベーションで仕事されたら、ここで働いてる人も迷惑ですよね」



そう言いながら今日入ってきたばかりの新人は、
他のお客さんたちが買い物している空間で、大声で私へと言葉をぶつける。

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