【B】眠らない街で愛を囁いて


「千翔さんに連絡してみたら?
 電話番号交換したんでしょ?」


織笑に言われるようにスマホを取り出すと、
私は千翔さんの電話番号を表示させて発信ボタンを押す。



だけど電話は繋がる気配がなく、ようやく繋がったと思えば留守番電話へと接続された。




「織笑、留守電だった」

「そっかぁー。
 じゃあ、今日は私が付き合ってあげる。

 ファミレスでも行こうか?」


そう言うとこのピルから少しでも離れたい私の気持ちをくんで、
織笑と一緒に歩き出した。



17時を回ってもまだまだ明るい夏の空の下、
その暑さに歩き続けるうちに少し汗ばんでくる。


手うちわで時折仰ぎながら一駅分を雑談しながら歩く。


そして食事とドリンクバーのセットで3時間ほど粘って
織笑との話で盛り上がった。




だけど馬上さんがコンビニにバイトに来るようになって、
私の周囲で少しずつ変なことが置き始めた。



職場で同じシフトになっても、馬上さんの私への攻撃的な態度は変わらない。


千翔さんはあの日から、コンビニへと姿を見せなくなった。

代わりに毎日、LINEや電話で連絡はくれるものの
隣に居て千翔さんを感じられないのは、やっぱり寂しくて……。




だけど私の周囲の変化はそれだけじゃなかった。




アパートの私の部屋のベランダのガラスが、
留守中に何かを投げ込まれたみたいで割れた。




アパートの大家さんから仕事中に連絡が来て、
慌てて家へと店長のことわりを貰って帰った。



子供たちがキャッチボールをしていて目測をあやまって窓ガラスが割れてしまった。

それだったら単なるボール遊びの時の事故という判断になるみたいだけど、
私の部屋から見つかったのは、少し大きな石が幾つも落ちた残骸とトレーニングに使うような鉄のおもり。



用意しようとしない限りは本来は縁のないそれが、
割れたガラスの前に無造作に落ちていた。


誰かの悪戯の可能性もあって被害届作成のため、
その後も警察に拘束されて職場に再び戻ることは出来なかった。



だけどおかしなことはそれだけじゃなかった。



アパートの私の部屋の扉にペンキで落書きをされたり、
アパートの敷地内で不審火があった。

実際にゴミ捨て場のゴミに火がついて、
大家さんの手際のいい消火活動に大事には至らなかったけど、
消防車が何台も来る時もあった。


アパート内に住む住居人の車が、
駐車場で10円玉を擦りつけられたような傷をつけられたこともあった。

ベランダに干した洗濯物がなくなったり、アパートの前に落ちていたりもした。




次から次へと起こっていく不審な出来事に正直、怖さしかない。



後はもう一つ気になってるのはコンビニから帰宅している途中、
いつも誰かの気配を感じているという事。



一度、怖いっと疑いを感じてしまうと簡単に気持ちを切り替えることは出来なくて、
何度も何度もすれ違う人や、背後から近づいてくる足音に怯えながら、
自宅アパートまでの道程を急いだ。




職場での馬上さんが私を目の敵にしたような嫌がらせのオンパレード。



自ら私と二人のシフトを望みながら次から次へと自分がミスをして、
その責任を私がそうやってやるように指導したからだと店長に泣きながら訴える。

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