【B】眠らない街で愛を囁いて
この部屋にも今は居られない。
今はここに残る理由もない。
夏休み……帰っておいでって言ってたな。
思い出したその言葉にしがみつくように、
私は旅行鞄に思いつくままに荷物を詰めてアパートを後にした。
電車から新幹線。
そしてもう一度電車に乗り継いで辿り着いた故郷。
懐かしい場所についた時にはもう最終バスも出てしまった後で、
そこで始めて自宅へと電話をかけた。
「お母さん……帰ってきちゃった。
最終バスなくなっちゃったから迎えに来て」
たったそれだけのことなのにそれだけ伝えるのに、
涙が知らぬ間に零れてきた。
行き場所なんて何処にもない。
運命なんて……ないんだ。
……私はこれからどうしたらいいの?……
家からの迎えが到着するまで駅のロータリーに崩れる様に座り込みながら、
スマホに映る懐かしい千翔さんとのLINEを見つめていた。