【B】眠らない街で愛を囁いて



9月になったらまた新学期が始まるのに向こうに帰ることを心が拒絶してる。

だけどまだ……大学は入ったばかり。


せっかく入れた大学だから、ちゃんと卒業したいって思う私と、
もう何もかもがどうでもいいと思っている私。


2つの意見が私の中でぶつかってしまったら、
どうしていいのかわからなくなって、考えることを拒否してしまいそうになる。


考えることを拒否してしまった私は、
ただ、とらと一緒にボーっとしていたいと思ってしまう。



「叶夢、とらと一緒に居たいのはわかるけど、ご飯食べなさい。
 お祖母ちゃんが朝から、叶夢の好きなもの張り切って作ってわよ。

 お母さん今日は、お隣のおばあちゃんの買い物の付き添いで車出す約束してるの。
 お父さんは法事と会議と、月参りとで慌ただしいと思うわ。

 ゆっくりしてなさい」


そう言うとお母さんは玄関から出掛けしまう。

とらを連れて、台所へと向かうとテーブルへと並べられたご飯を見つめる。


テーブルに並んでいるのは、おばあちゃん手作りの沢庵。

そして『いただき』とお味噌汁。
シンプルなご飯だけど、私は『いただき』が好きだった。


この村の郷土料理ってわけじゃないのに、
小さい頃から『いただき』を何度も作ってくれたから大好物になったんだっけ?



見た感じはお稲荷さんなのに、中を開けたら炊き込みご飯が詰まっている『いただき』。
お稲荷さんの油揚げも、炊き込みご飯も大好きだから、大好物が二つ合わさってるのに感激したんだ。



そんな『いただき』を掴んで、パクっと口の中にくわえてモグモグと口を動かす。
ゆっくりと嚙みしめながら、食べ終えた時、ふと視線を向けると、テレビの裏に隠しているのか他の雑誌で隠しているのか、
気になる見出しが視界に入る。




大学生と高校生の殺傷未遂事件。
高校生は何を思って犯行におよんだか?





女性雑誌を引き寄せて、私はその見出しのページを探す。



全二頁の記事で、住んでいたアパートらしき建物と、
B.C. square TOKYOのコンビニ店舗、そして馬上さんらしき人の生い立ちなどを好き放題書かれていた。



高校生には異父兄が存在し、異父兄に侵された事によって精神が不安定になった。
現在、高校生の兄は学生起業ら成功し……。





そこまでの文字を読んで、目をそらすように本をパタリと閉じる。


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