【B】眠らない街で愛を囁いて



「おいっ、千翔。
 俺は何処まで迎えに行けばいいんだ?」

「あっ、ちょっと待って。
 最寄りの場所確認するから」


そう言って電話のさなかに、彼女におりるインターチェンジを確認する。
ひとえに東京と言っても、インターチェンジは多い。


彼女から聞いたインターチェンジを兄貴に伝えると、
迎えの手配を取り付けると同時に、高速バスの会社にもその旨の連絡を付けて貰った。

荷物だけは確実に取り戻さないとマズい。



「電話、有難う」

そう言って少女へと手渡すと「どうぞ。引っ越しの荷物でいっぱいだから、狭くて窮屈なんだけど」っと、
助手席へと誘ってくれた。


車体を前回りに歩くと、フロントボディーにはペタリと貼られた真新しそうな初心者マーク。


覚悟を決める様に助手席に乗り込んで、ふと後ろを覗き込むと、
引っ越しの荷物らしき、箱やTV、カラーボックスなどが積み込まれていた。


「じゃ、車出しますね」




そう言って発信した車。


初心者独特の緊張感の残る運転に、
眠くなるどころか目が冴えまくりの中、途中でトイレ休憩を挟んで6時前に、
最寄りのインターチェンジへと到着した。



「ここでいいんですか?」


ハザードを出して車を寄せた少女に、
俺は深々とお礼を言って名前を聞く。


「あぁ、すいません。宜しければお名前を。
 今日は助かりました。

 また後日、お礼をさせて頂きたいんですけど」

「お礼なんて大丈夫ですよ。
 でも名前ですよね。

 叶夢っていいます。
 この後は、無事に帰れますか?

 お財布ないなら、少しお金渡しましょうか?」

そう言って、鞄の中から財布を取り出した少女の手を制して、
迎えに来てくれた兄貴の車を確認する。


「大丈夫です。
 今、迎えが到着したのでこれで帰れます。

 今日は本当に助かりました」


そう言って深々とお辞儀をして助手席のドアを閉めると車はゆっくりと方向指示器を出した後、
移動を始めた。


俺は何とも不思議な感覚を抱きながら、
兄貴の待つ車へと移動した。




迷いの狭間……。




勝手に俺がそう呼んでいる、
視えないものが視える世界。



その迷いの狭間の時間の苦痛から、
あんな風に解き放たれたのは初めてだったから……。



……かなめちゃんかぁ……。



そんな不思議な少女との出会いに、
何処か、心躍る俺自身がいた。

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